7月7日七夕の夜、新宿LOFTで開催されたツーマン・ライブイベント「乙女の事情」。
出演は90年代後半ガールポップ・ブームのメインストリームを駆け抜け、ゼロ年代以降は活動の場をインディーズに移しながら意欲的な作品を世に問い続け、先ほど16年ぶりの地上波TV出演を果たしたことが大きな話題になった川本真琴。
そんな完全復活を目前に控えた実力派シンガーを迎え撃つは、前日にTwitterでメジャーデビューシングル発売と結婚を同時に宣言し、ファンの度肝を抜いた大森靖子。
満員の会場は開演前から独特の緊張感と異様な熱気に包まれていた。

先に登場したのは川本真琴。自身も楽曲を提供したぱいぱいでか美と余裕のデュエットをキュートな振り付きで披露したあとステージセットをガラッと変え、ドラマーのU、佐藤優介（key）、どついたるねん木本（b）らキャラの立った若手を従え、強烈にダンサブルでアッパーな最近の楽曲を立て続けに演奏。フロアを沸かせた。
即席編成とは思えないリズム隊の安定感が見事で、隣で見ていたどついたるねんのトラックメイカーうがいも「なんか昔からやってるみたいなかんじっすね」と舌を巻いていた。
それに応える川本の歌唱も気迫みなぎるもので、最後は神聖かまってちゃん「フロントメモリー」でビシッとしめて“現役感”を逆に際立たせたあたりは流石というほかない。

続いてモーニング娘。「ハッピーサマーウェディング」を出囃子に大森靖子が登場。衣装はまさかの「血染めのウェディングドレス」。客席にいろんなもの（ソーセージ、蓋に「キッコーマン」のシールを貼ったペットボトルの烏龍茶、バナナ＝「2007年飯田圭織バスツアー」へのオマージュ）をガンガン投げ入れるという、まさかの演出に嬉々とするファンに対して「誓いの言葉」を宣言。
曰く「大森靖子はかっこよくなければならない。大森靖子はおもしろくなければならない。大森靖子はダサくなければならない。この3つを一生守りぬくことを誓います、それでは聴いてください『ミッドナイト清純異性交遊』！」
次の瞬間、大森は勢いよく客席にダイブし、観客から渡された花束の花をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、髪に飾り、そしてムシャムシャと食べ始めた。
宣言のとおり「かっこよく」て「おもしろく」て「ダサ」さも厭わない表現者の姿がまぎれもなくそこにあった。
まだ事態が飲み込めずに呆然としている客席にしっかり対峙し、弾き語りできっちり歌をひとりひとりの心の奥底まで届ける。名曲「背中のジッパー」では客席からすすり泣くような声すら聞こえてくる。そして「あまい」の途中から直枝政広（g，cho）率いる鉄壁の布陣のバンド［tatsu（b）、奥野真哉（key）、前越啓輔（drums）］の演奏が大森の歌に寄り添い、ボルテージは最高潮に達する。実に味わい深い直枝のカッティングやオブリガードには感情を揺さぶられた。直枝政広という、キャリア30年を超える音楽家にとって、大森との出会いがいかに大きなものであったことはステージでの解き放たれたような演奏ぶりを見るだけで想像に難くないし、当然大森にとっても然りである。すべての思いを飲み込むような破格のテンションのステージングはひたすらにハッピーでただただ圧巻だった。
そして途中、SPEEDの「STEADY」の強烈なアカペラ・カバーをワンコーラスだけ挟み、「新宿」で会場は一体となりライブはクライマックスに向かう。

アンコールではメジャーデビューシングルとなるエレクトロでアッパーなチューン「きゅるきゅる」が披露された。ヴォーカルスタイル、曲調ともにドラスティックな変化を見せ、その歌いっぷりも鳥肌が立つほど見事で、歌詞にある「どこへだっていけるよね」っていうフレーズもなんともポジティブで、どこへだって行けるような気がしてくる。
すべてを置き去りにして彼女はこの陰惨な地平を──それがまさに彼女の言う『地獄』なのかもしれないが──ギター一本を抱きしめたまままっすぐ進むのだろうか。
そんなちょっぴり沈痛な思いをよそに、ひとたびステージを降りた彼女はいつもと同じ人懐っこい笑顔でファンとの交流を心から楽しんでいるのであった。最後にもう一度、言わせてください。「靖子さま、ご結婚おめでとう！」（文：玉川カルトット）

関連リンク

• 川本真琴 オフィシャルサイト
• 大森靖子 オフィシャルサイト