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トップコラムさめざめの恋愛ドキュメンタリー第十一回「ラブホのシュシュ」

一回「ラブホのシュシュ」

第十一回「ラブホのシュシュ」

2018.02.01

今でも忘れない。2月29日の閏年。

 

待ち合わせをしたとき、私が先にきみを見つけたこと。

カフェで私だけランチを頼んで、きみがブラックコーヒーを飲んでいたこと。

途中で雨が降って来て、ふたりでずぶ濡れになってラブホに入ったこと。

ラブホのアメニティのシュシュが、安いサテンの生地の深い赤色だったこと。

 

きみと触れたあの日から、いつかは絶対に終わってしまうものだって思っていたから全部鮮明に覚えているんだ。

 

あの日、なんとなく持って帰ったラブホのシュシュ。

そのシュシュで髪を結わくたびに、きみの温もりを思い出せる気がした。

 

いつの間にかそのシュシュを失くしてしまったと同じ時期に、きみを好きでいることがこんなにも苦しいことなんだって気づいてしまった。

 

2月29日からずっと一ミリたりともきみとのすべてを忘れないようにしていた分だけ、辛くなるのには時間がかからなかった。

 

あれから2年が経とうとしている。

 

今年は2月29日は来ない。

 

始まりの日をカウントできないように季節が巡る。

 

2年も経てば、自分の気持ちの抑えかたも辛さの配分方法もなんとなく分かるようになった。

 

失くしてしまったシュシュを探すこともなくなった。

 

そして今日もひとり、ラブホに一番近い地下鉄の階段を颯爽と降りる。

うつむきながら歩いていると、階段の隅に失くしたシュシュと同じものが落ちていた。 

 

シュシュは誰かに踏まれたのか、萎れた薔薇の花のように横たわっていた。

 

誰かも同じようにシュシュを落としてしまったのだろうか。

 

立ち止まってそのシュシュを目で撫でた。

そして、さっきよりも3センチだけ顔をあげてまた階段を降りる。

 

二年後の2月29日の私に聞きたい。

 

「あなたはいま、幸せですか?」と。

 

「新しいシュシュで心を結わけてますか?」と。

 

 

 

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