トップ > コラム >戌井昭人の想い出の音楽番外地 > 第二十四回 「牧歌的なイメージとは程遠かったハンク・ウィリアムスの生涯」

HankWilliams.jpg
 
 うちの父は、ギターを弾いて、唄い出すことがよくあります。それも全部英語の歌なので、「なんだか、いろいろできるんだな」と、子どもの頃は思っていましたが、時を経て、レパートリーは、3、4曲で、それは、すべてハンク・ウィリアムスの曲なのだということを知ります。
 そんでもって、なんと言いましょうか、カントリー・ソングの鼻に抜けるような唄い方ばかりするので、最終的には、「また、あの歌が始まったよ」と思うようになっていました。
 この前も、実家に寄ったら、調弦の狂ったギターで、いとこの子どもに向かって、ハンク・ウィリアムスの「ジャンバラヤ」を唄っていました。
 とにかく、父の歌から想像するハンク・ウィリアムスは、ほのぼのした感じだし、レコード・ジャケットの写真も、細身でテンガロンハットを被って、ニコリとしているので、わたしは、ハンク・ウィリアムスのことを、長いこと牧歌的な、カントリー歌手だと思っていました。
 しかしながら、本や雑誌を読んだりしていると、徐々に、ハンク・ウィリアムスの実態がわかってきたのです。当時はインターネットがなかったから、ほとんど古本屋の立ち読みなどで、情報がゆっくり入ってくるのでした。
 それらの情報によると、ハンク・ウィリアムスの晩年は、アルコール中毒、モルヒネ中毒となり、心臓発作で亡くなります。さらに、亡くなったのが29歳と若い。
 そして、決定的だったのは、『ロックンロール・バビロン』という、セックス・ドラッグ・ロックンロールにまみれた、これまでのロック史を写真と文でまとめた本を読んでいたら、ハンク・ウィリアムスの写真が出てきたことです。
 それは、父が呑気に唄っていた、ハンク・ウィリアムスや、家にある、アルバム・ジャケットの写真からは、想像できない姿でした。
 上半身裸で、後方に鉄格子みたいなものがあって、留置場なのでしょうか、目つきが完全にトンでいるのでした。日本でも、西成とか山谷で、こんな感じのおっさんを見たことがある。
 さらに、ハンク・ウィリアムスが、すごいのが、そのような状態でも、しっかりテンガロンハットを被っていて、なんだか、そのカントリー魂に感動してしまいました。
 でもって、今回、おすすめしたいアルバムは、ハンク・ウィリアムスなんですが、いろんな、廉価版のベスト盤が売っているから、どれでもいいと思います。それを聴いてほっこりしてから、『ロックンロール・バビロン』を古本屋で見つけて、写真を見てください(ネット検索すれば出るかな)。
 とにかく、あの写真を見ると、表現者は「狂気によって創作してるんだな」とか、思えてきます。
 
戌井昭人(いぬいあきと):1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。
 
ハンク・ウィリアムス
「Anthology」

amazonで購入


連載コラム一覧
  • おじさんの眼
  •  朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」
  • さめざめの恋愛ドキュメンタリー
  • 清亜美のスナック亜美
  • 大島薫の「マイセルフ、ユアセルフ。」
  • 能町みね子 新中野の森 アーティストプロジェクト
  • 能町みね子 中野の森BAND
  • アーバンギャルド浜崎容子のバラ色の人生
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の ああ夢城
  • ゲッターズ飯田のピンチをチャンスに変えるヒント
  • 戌井昭人の想い出の音楽番外地
  • 最終少女ひかさ 但野正和の ローリングロンリーレビュー
  • 吉村智樹まちめぐ‼
  • いざゆかんとす関西版
  • エンドケイプの室外機マニア
  • 日高 央(ヒダカトオル)のモアベタ〜よ〜
  • ザッツ団地エンターテイメン棟
  • 劔樹人&森下くるみの「センチメンタル「非」交差点」
  • 三原重夫のビギナーズ・ドラム・レッスン
  • ポーラーサークル~未知なる漫画家オムニバス羽生生純×古泉智浩×タイム涼介×枡野浩一
  • the cabs 高橋國光「アブサロム、または、ぼくの失敗における」
  • “ふぇのたす”ちひろ's cooking studio
  • JOJO広重の『人生非常階段』〜今月のあなたの運勢〜
  • マリアンヌ東雲 悦楽酒場
  • 大谷雅恵 人生いつでも初体験
  • ジュリエットやまだのイケメンショッキング
  • ケラリーノ・サンドロヴィッチ ロック再入門
  • 岡留安則 “沖縄からの『書くミサイル』”「噂の真相」極東番外地編
  • 高須基仁 メディア論『裏目を読んで半目張る』
  • 田中 優 環境はエンタメだ!
  • 吉田 豪の雑談天国(ニューエストモデル風)
  • 雨宮処凛 一生バンギャル宣言!
  • 大久保佳代子 ガールズトーーーク!!!!!
  • DO THE HOPPY!!!!!