トップ > コラム >おじさんの眼 > 第232回「ピースボートのノーベル平和賞受賞とオーロラ」世界一周の船旅−その3

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荒れた北海の海を彷徨う。暗い空にかすかな青色状の光。
 

ノーベル平和賞受賞者・川崎哲 第一回記念公演に参加

 川崎さんはピースボートが停泊していたレイキャビックから船に乗ったが、NYの国際会議に行く途中に受賞の知らせを聞き、急遽日本に帰る羽目になった。だから川崎さんが船に乗ったのは一日だけ。その夜、船内で受賞記念公演が開かれた。受賞第一回目に参加できたことはとても名誉だと思った。
 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の運営委員6人のうちの1人である川崎哲は、日本でこそほとんど無名だが平和運動家として世界的に有名な人だ。私がやっていた「ロフトラジオ」にも出てもらったことがある。公演内容はICANの今までの運動とその成果を語るもので、平和賞を取れるとは思っていなかったと言った。一番印象的だったのは「とにかく諦めず、核廃絶なんて無理だという人を説得し、運動するしかない。例えばそんなこと無理だと言っていた地雷禁止条約は全世界の国々が賛成して成立した。だからこの受賞は嬉しい。トランプはオバマのプラハ演説を無視して、さらに小型核兵器開発をすると宣言している。そのアメリカが”自分の国はもっとたくさん持つけどお前の国はダメだ”と北朝鮮に核兵器の開発をやめろと言っても全く説得力がない。また核抑止肯定論、アメリカの核の傘に入っている日本が北朝鮮の脅威を言って、核禁止条約を拒否した。被爆国日本は本当に核兵器廃絶を願っているのか?」という内容だ。
 その夜、0時近くまで川崎さんと酒を飲んだ。20年のピースボートの運動が報われたと素直に喜んでいた。「日本政府からお祝いのメッセージはきましたか?」と聞くと、「外務省はノーコメトだそうです」と悲しそうな顔をした。そしてその4時間後に彼は日本へむけて出発した。
 私はピースボートの船内で2ヶ月前、「憲法9条ってどうよ」というイベントを開催して、川崎さんにパネラーとして登場してもらった。その後、脱原発ドキュメント映画『首相官邸の前で』という映画の上映と討論会を開いた。二つとも核廃絶を願うイベントだった。だから今回の受賞はことのほか嬉しい。一月にはロフトでイベントをやることを約束してくれた。

 
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ノーベル平和賞受賞。
昔、朝生でバカにして笑った連中は今何を思うか?

苦難のオーロラ探し

 世界一周船ピースボートの宣伝文句に「北極航路はオーロラを見れる確率が90%」とあった。船は日本を出港してアジアやヨーロッパの港をまわって二ヶ月を過ぎ、スコットランドのエジンバラから一路北極海に向かう。冬に向かっているせいか北極海はほとんど曇天か雨の日が続いていた。海は地中海の青さとは比べものにならないくらい暗い。海風と寒さがきつくなって、デッキで海を見ながらの食事はできなくなってきている。しとしとと降る雨が甲板を灰色に染めてゆく。船はこれから4日間、最北の地・アイスランドのレイキャビックに着くまでオーロラ探しに入る。冬に向かう時期は一番オーロラが出やすい期間だという。乗客の期待は高まる。1日目と2日目は雨と重たい黒雲がかかっていてオーロラは発生しなかった。全てがお天気次第なのだ。たとえ宣伝文句が90%の確立で観測できると言ってもそれも運が頼り。オーロラの出そうな海域に移動する船も、多分船長もスタッフも必死なのだろう。この航海でオーロラを見れずに終わればどんな誹りを受けるかわからない。
 3日目の朝3時ごろ、突然けたたましい船内放送があった。「左舷前方にオーロラが発生しました」というアナウンスに、千数百人の乗客のほとんどが(杖なしでは歩けない爺さんもばあさんも、若者も、風邪で寝込んでいる人も)狭い階段をよじ登る。みんな一目オーロラを見ようと必死だ。防寒具とカメラを備えて、深夜の揺れるデッキに集まる。甲板上は零度以下で寒い。確かにアナウンスの通りオーロラらしきものは見える。はるか遠い水平線の彼方の暗い空にかすかな青色状の光がいる。オーロラらしきものに色が着くのは一瞬でしかない。とても携帯カメラでは映らない。私たちがよく見るプロのカメラマンが撮った豪快なオーロラとは程遠い。「なんだ、オーロラ見たよって思ってもあんなもんか?」と思うことしきりだった。それが数秒で消えて、しばらく寒空に立ち尽くしていると、またちょっとだけ青く明るくなる雲が出現するだけだ。感激する時間がない。オーロラ探しの最終日も結局は空振りに終わった。
 
 
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船の上ではオーロラ観測隊が結成された。

Autumn in New York

 16年ぶりのNYだ。船はハドソン川のブルックリン近くに停泊した。歩いて10分ほどでセントラルパークに行ける。メトロポリタン美術館もユニオンスクエアも歩いて行ける距離だ。セントラルパークは秋の気配が深まっていた。最後にこの地を訪れたのは、17年前、NYを襲った9.11同多発テロの直後だ。どうしても現場のグラウンド・ゼロに行ってみたかった。ケネディ国際空港再開と同時に私は飛行機に乗り込んだ。NYは狂気の愛国心に沸き返っていた。まだ、水蒸気が立ち込め冷え切っていないグラウンド・ゼロの前に立ち、その夜、アイリッシュバーでニューヨーカーのものすごい怒りに触れた。その渦の中に巻き込まれ、私はふっと、「アメリカの報復はやむをえない」など思ってしまった。痛恨である。
 17年ぶりに会う日系のコロンビア大学教授の友人と、秋深まるセントラルパークのブルックリン側を歩いた。
「この辺も実に安全になったもんだな。NYは変わったな。俺の知っているNYじゃない」「あの9.11から治安維持がきつくなって、市民運動への弾圧もすごいが、犯罪が減ったのは確かかな」「どうだい、偉大なトランプ大統領をいただいて誇り高いだろう」「まいったな、どこでもトランプの話が出る。そしてみんなから冷笑される」「それを言えば日本の安倍だって同じだよ。今度の選挙も自民圧勝だそうだ」「世界はどんどん右傾化している。きっと近いうちに大きな戦争が起こるかも……」「嫌な時代になるな」と言って、お互いが沈黙した。
 落ち葉を踏みしめるセントラルパーク。いい散歩だった。
 「お互いにもう歳だ。あんたも日本に帰る気は無いだろうから、これが会うのは最後になるのかな」と硬い握手をして別れた。
 
 
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もう観光には飽き飽きしている。
 
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興味があるのは人間関係のドラマだ。
 
 
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