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トップコラムおじさんの眼第215回 太平洋〜インド洋〜紅海〜エーゲ海〜大西洋そしてドイツ・ ハンブルグ港

15回 太平洋〜インド洋〜紅海〜エーゲ海〜大西洋そしてドイツ・ ハンブルグ港

第215回 太平洋〜インド洋〜紅海〜エーゲ海〜大西洋そしてドイツ・ ハンブルグ港

2016.06.01

 
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ギリシャ・ピレウスへ港入港
 
大海原を行く~世界一周ピースボートの船旅(106日間)~その2
 
 今年の4月13日、横浜港から出発した私の船旅は数々のドラマを展開しながら、太平洋~インド洋~紅海~エーゲ海~大西洋と渡って今、ドイツのハンブルグ港にいる。
 

<いろいろな曰くを持った乗客たち>

 いやはや、今さらながら驚いた。それはこの船がさらに「老人船」へ進化していることだ。「動く老人ホーム」とも呼ばれ始めている。なんと乗客の70数%が60歳以上という老人たちの世界なのだ。40歳以下の若者(?)は10%以下。さらにはリピーター率が40%以上なのだ。まさにこの船は老人ホーム化しているのだ。勿論、70歳の私も老人なので文句は言えないが、それは凄い世界だ。私などは音楽の世界やサブカルの世界で生活している訳で、ほとんど老人の世界を知らずにいたから、毎日、別世界に来た感じでカルチャーショックの連続だ。
 ここでの老人たちは一部(私もその一部なのだが)を除いて、徹底的に解放され尽くすのだ。9時過ぎにはみんな寝ていてしまって、船内は静かだ。多くは朝の4時からデッキでのウォーキングが始まる。それから朝のラジオ体操、太極拳から始まって、運動会の練習や盆踊りの東京音頭などの音が、海を見ながら本を読んでいる私のところにまで否応もなく入り込んで来る。
 「外国航路」の船の中で何が悲しくて東京音頭を聞かにゃ~いかんのかと最初は腹が立ったが、高度経済成長を支え、日本村で抑圧されて来たおばさんやおじさんたちが張り切っているのを見ると文句も言えなくなるのだ。
 「夫に死なれ、子供たちはもう自分たちの生活に追われていて、私は一人ぼっち。初めて勇気を出してこの船に乗った。ここではみんな家族以上のお付き合いができて、ダンス・折り紙・卓球・太鼓叩き・ヨガ・カルチャーイベント・水彩画…何でも親切に、それも無料で皆さんが教えてくれる。それに語学なんか全くできなくても見知らぬ外国の地に行ける。この場所は素晴らしすぎる。私はきっと来年もこの船に乗ろうと思います」という老人と出会った。この言葉に私は打ちのめされてしまった。この老人世界を忌み嫌っていた自分の心の狭さを悲しく思った。
 
 
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酒場が近いと困る。ふっと気がつくと酒を飲んでいる。

<平野さん、船内企画を!>

 相変わらず私は人を寄せ付けずに、ロビーで海を見ながら騒音カットの大きなヘッドフォンをつけてサングラスをかけ、本を読んでいるかパソコンでキーボードを叩き原稿に向かっている。これはたとえ私の隣に座っても、話しかけないで欲しいというメッセージなのだ。
 しかし、ピースボートのスタッフは私を放っておいてはくれない。(どうもピースボートのスタッフの中で私は有名らしい)
「平野さん、企画をやって欲しい。ロックと原発とヘイトスピーチの討論番組です。それをできるのは平野さんしかいないのです。」と要求された。
「なにをおっしゃる、私は300万円(一番安いこのボートの参加料金は4人部屋、100万円以内で済むらしい)の海の見える大きな窓がある一人部屋にいて、なんともこの船ではお金持ちのいい乗客をやっている訳で、今回のテーマはこの船の「航海記」を出版したいことなんだ。一人にしてくれ」「それなら、平野さんの企画で討論イベントをやったらいい記事が書けるのではないですか」と言われた。確かにそれは面白そうだ。
 結局、私は乗船一ヶ月で「日本のロックの歴史」を二回と、「朝まで生討論、どうする、どうなる日本、憲法問題」という番組を仕込んだ。そして昨日は「ロフトラジオ、ピースボートって何?」という番組でここのチーフデレクター田中洋介氏(船長の次に偉い)を招いて、ピースボートの「意義」について討論をした。やはり「若者よ世界を知ろう」というテーマで出発したNGOのピースボート、老人ばかりの乗客にはメンバー一同、相当困惑しているという。
 これらの私の日常はshimirubonというサイトにコラムを載せているので、興味のある人は是非読んで欲しい。さらに討論番組と、チーフディレクタ田中洋介氏へのインタビューはYoutubeにアップするのでよろしく。
 
 
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イベントや自主企画が目白押しで、みんなあちこちに移動して忙しそう

<70歳の抵抗~フォール イン ラブ>

 恥も外聞もなく、70歳の私はこの船で何十年ぶりのあてどもない恋をして、そして失恋した。これは私にとって劇的で、まるで映画の主人公になった感じで「フォール イン ラブ」に落ち込んだ。恋の相手は60歳後半、北海道のクリスチャンだ。この女性とは船内イベントの「聖書を読む会」(私は、爺さんがアメリカ人なので不信心なクリスチャンでもあるのだ)「習字をしよう」「合唱隊結成」等のイベントに参加して出会った。1,000人以上もいる乗客の中で、三つの会で隣り合わせになることは実に不思議で、それなりの因縁を感じた。それもあって、彼女は自分の情況を話してくれたんだと思う。気品があり、気位の高い女性で「夫と家で同じ空気を吸うのが耐えられなくてこのボートに逃げた」と言った。私は一方通行の恋をし、なんとか彼女から「私もあなたを好きです」という言葉をもらうまでに持ち込んだが、「私は敬虔なクリスチャン、あなたとつき合うことを神様に問えば、必ず夫を許しなさい。許す事が神の教えです。神は7,000回も子羊たちを許しました。と言われるに決まっています。」と言うのだ。
 私たちの最後の日、彼女は私の部屋のドアをノックし「私を強く抱いて欲しい」(それはあくまでもハグだけであったが)と言い、「昨日、夫からメールが来ました。出て行かないでくれ、私を許して欲しい、と。私は夫の元に帰る決意をしました。だから悠さんとはもうお会いしません。さようなら悠さん。親切をありがとう」と言われた。完全に私の「恋」は敗北であった。
 
 この航海も約50日が過ぎようとしている。もうすぐこの船を離れて今回の私の最大のテーマ、オーバーランドツアー「北極探検ツアー」(16日間、99万8千円・15人参加? )が始まる。なんと100万円近くも払っての参加だ。体調を整えないとヤバそうだ。失恋の病を引きずって、一人北極の氷と向き合うのもいいのかもしれない。もう70歳を過ぎた私には「時間がない」という脅迫観念に追われている自分を見る。これから老人ホーム行きを決断する前に、私はもう数回この船に乗るに違いないと思っている。
 
 
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キャビンの窓からしょんぼり見る海より、デッキで見る海の方がいい。
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