トップ > コラム >おじさんの眼 > 第207回 この秋は"ロフトプラスワンの歴史を書き綴る"に挑戦

サブカルざんまい 〜ロフトプラスワンSTORY〜

 2015年9月19日、安保関連10法案が強行採決された屈辱的な日。私は今、オープン20年目を迎えたロフトプラスワンの歴史をパソコンに向かって書き綴っている。ちなみにロフトプロジェクトは設立から44年もの歴史(1971年、ジャズスナック・烏山ロフト開店)がある。
 書き上げている本は私が3年前に出版した『ライブハウス「ロフト」青春記』(講談社刊)と同じ着想なのだが、もういつオッ死んでも不思議ではない歳になって、「世界初のトークライブハウス、ロフトプラスワンの20年もの歴史を書ける者は私しかいない」というどこか自分勝手な妄想と変な使命感を持った気持ちなのだ。一応、仮のタイトルは『サブカルざんまい 〜ロフトプラスワンSTORY〜』とつけたのだが……。
 

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『70'sバイブレーション』の帰りに訪れた山下公園の夜景

出演者とテーマを調べるだけでも大変

 いやはや、書き始めてみるとプラスワンの20年もの歴史、毎日行なわれるイベントの数々は、ちょっと凄いものがある。年間にプラスワン(150人収容)1軒だけでも土日祭日(休日前は1日3回公演)合わせて500本近くの様々なイベントを打っているのだ。
 あれから長い年月を経て、東京を中心に全国各地でこういった「トーク空間」が少しずつ出来るようになった。トークライブハウスと名乗るかどうかは別にして、イベントの制作は音楽のそれとは違い、ある程度の空間さえ確保すれば誰でも開催ができ、出演者としっかりコミュニケーションさえ取れれば食事と酒を出したり、マイクやスクリーンがなくても別にいいはずだ。それはさらにネットで拡散される。
 そして今は嬉しいかな、トークカフェブームなのである。それぞれの主義主張やエンターテイメント性を持ったイベントが全国各地で開催されている。このサブカル文化は週末の午後の喫茶店や映画館、珍しい所では教会やガレージなどを舞台に浸透し、書店での作家のトークライブも盛んだ。それはまるで今から40数年前、東京では1軒もなくなってしまったロック/フォーク系ライブハウスが誕生し、発展していった情景と速度の差はあるが似ているような気がする。
 
 
 
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いたたまれず雨の中、国会前に参戦(ロフトラジオ生中継)

一番面白い話をしているテーブルにマイクを置いてみよう

 その小さな自由で闊達なる空間の始まりは、1995年、私のほんの「冗談」から始まった。
 こうしたトーク空間の成立は、今まで不特定多数の聴衆の前で自分の足跡を喋ったり、流儀やこだわりを熱っぽく説いたりしたことがあまりなかった芸術家、作家、演出家、おたくやスケベやお笑い…有名無名を問わず、あらゆるジャンルの表現者たちにその門戸を開いたことにあるのだと思う。
 そういった小さな空間に高いライブ・チャージを払って話を聞きに来る習慣なんてなかったので、当初はライブ・チャージを取るという発想を廃しての開店だった。ふらっとビールを飲みに入った居酒屋で、自分の知らない「こだわり」を持った人の話を聞いてしまう。今までそんな居酒屋が存在しただろうか? 市井の人が何十年にも渡ってこだわり続けてきたいぶし銀の世界を、そこに居合わせた人たちが酒を飲みながら垣間見る。議論する。そんな空間があったら面白いと刹那的に思った。居酒屋で一番面白そうな話をしているテーブルにマイクを置いたらどうなるのだろう? と。
 初めの頃はわずか数千円程度の交通費しか払わなかったが、店の企画が充実してくると、お客さんがたくさん入る話題の著名人を招くためにどうしてもギャラや交通費が必要となってきて、ノー・チャージの試みは数ヶ月でパンクし、どこにでもあるライブハウスと同じようにライブ・チャージを取って採算を合わせるしかなくなってしまったのは残念だった。
 

黎明期の日本のロック/フォークが伝えるもの

 1970年代の日本のロックの夜明けを作ったキング/ベルウッド・レコード創設者の三浦光紀、その盟友である牧村憲一(独立音楽プロデューサー)の二人の鼻息が荒い。ラジオやイベント、ネットを通じて熱っぽくいろいろと発信している。二人ともかつて大病を患っての復帰だからだろうか、歴史を積み重ねた一つ一つの言葉が重い。
 9月12日、横浜赤レンガ倉庫で行なわれた『70'sバイブレーション』のイベント(牧村憲一と長門芳郎のトーク)に足を運び、9月21日には阿佐ヶ谷ロフトAで『ベルウッド・レコード “いい音” Live & Talk』(出演:三浦光紀、牧村憲一)のイベントにも参加した。後者のイベントではわたしゃ後半に司会をやらされるハメになったが、三浦、牧村両氏の音楽個人史は実に貴重で面白い。二つのイベントは1970年前後に日本語ロックを「発明」したはっぴいえんどを基点とし、サブカルチャーとして躍動した時代の話だった。
 はっぴいえんどは、「日本語で唄うロック」なんてとてもやれるものではないと言われ続けていた当時のロック界の常識をぶちこわした偉大な革命児だった。怪しげな巻き舌で唄う彼らのロックは流行にもなった。その歴史はライブハウス「ロフト」の歴史と重なる。私自身もはっぴいえんどと出会わなかったらライブハウス稼業はやっていなかったかもしれない。みんなはっぴいえんどが好きなんだな。
 イベントを通じて日本のロック/フォークの黎明期を支えた重鎮たちが一番に言いたかったのは、あの時代のフォークやロックの数々は今でも充分伝わる音楽なのだ、ということだったと思う。そして今やCDが売れない時代に来て大資本のレコード会社が撤退し、音楽家がその資本の論理から自由になれた今こそ、私たちを興奮させるいい音楽がきっと出てくるはずだ、「音楽の未来は明るい」と彼らは言う。
 
 
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阿佐ヶ谷ロフトAに登壇した牧村憲一と三浦光紀の両氏
 

芸術の秋をさわる

 待ち望んでいた秋がやって来たようだ。怠惰な夏が終わり、涼しい季節になると感受性が豊かになってきて、何か物事に熱中できそうな気配だ。
 『金山康喜のパリ 〜1950年代の日本人画家たち〜』を鑑賞しようと世田谷美術館へ。金山康喜(33歳で亡くなった)の70点あまりの静物画の作品を観て、戦後の荒廃の中から芸術の息吹を求めて憧れのパリに渡った若き画家たちに思いを馳せた。藤田嗣治の『花を持つ少女』も観られたし、荻須高穂の『洗濯場』には初めて出会えた。
 家から自転車で15分。砧公園は私が一番愛する緑深き場所だ。熟し切った緑の息吹を感じながら、野鳥観察所に。
 物々しい装備をしたバードウォッチングのおじさんたちが張り切っている。春になるとここは花一色になる。立ち菊とラベンダー(多分)の小径がいい。
 
 
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世田谷砧公園にある世田谷美術館で鑑賞した金山康喜の『鏡の前の静物』
 
 
<『ロフトラジオ』9月のラインナップ(アーカイブもご覧になれます)>
【第34回・9月3日】
「音楽戦士・PANTA(頭脳警察)が語る!」
ゲスト:PANTA(ミュージシャン・頭脳警察)、斉藤優里彩(制服向上委員会)
【第35回・9月10日】
「この夏のドキュメンタリー映画・番組をめぐって」
ゲスト:綿井健陽(映像ジャーナリスト・映画監督)、渡辺勝之(編集者・Japan Docs)
【第36回・9月17日】
「緊急決定! 風雲急を告げる、国会前から現場生中継〜強行採決されるのか?」
【第37回・9月24日】
「核をなくし戦争を止める〜ピースボート共同代表、川崎 哲さんと考える〜」
ゲスト:川崎 哲(ピースボート共同代表)
 
▼放送URLはこちら(毎週木曜日20:00〜22:00)▼
 

Live info.

【毎週木曜日生放送 ロフトラジオ】
ライブハウス稼業を始めて早40年。いつもライブの客入りに一喜一憂してきた創業者・平野悠が「もうこの歳になったら、毎日の売り上げとか気にしないで、気楽に好き勝手なことを喋りたい!」とある日突然思い立ち、なぜかネットラジオを開局しました。名付けて「ロフトラジオ」。だいたい毎週木曜日の20時から22時まで(その日の乗り次第で長くなったり短くなったり)、新宿百人町のロフト仮設スタジオから放送します。

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