Rooftop ルーフトップ

COLUMN

トップコラムおじさんの眼第201回「春の息吹と墓参り」

01回「春の息吹と墓参り」

第201回「春の息吹と墓参り」

2015.04.01

ojisan_01.JPG

伊豆半島南部で2月に咲く早咲きの河津桜

人生を濃密に生きるとは?

 「生命は尊くも卑しくもないただの自然現象です」「死というのは人間の意志と理解を超えたところからやってくる出来事」とは、2007年、40代で亡くなった哲学者・池田晶子の言葉であるけれど、私は幸運にも70歳を越えるまで生きてこれた。
 20代の頃、70歳という年齢は果てしなく遠かったように思う。早いか遅いかに過ぎない私たちの「死」というものの「絶対性」を前に、私たち世代の死を強く意識するようになった。そう、我々の世代は間違いなく早晩滅びてゆく存在なのだ。残された時間の中で友情を深める一方で、その友人たちの一つ一つの死を前に「次は自分の番だ」という思いが、否応なく押し寄せてくる。
 死に向かって何を準備すればいいのか。残された時間をどう生きるか。歳を取るとやはり、強く考えるようになった。力の及ぶ限り豊かに、生きる希望を持ち、深く、生産的に生きること。無駄なことをする時間はない、心を向けるべきは自分自身だ。「私は果たして〝今〟〝現在〟を濃密に生きているのか?」と問うた時、「自分が今いる、生きているということはどういうことなんだ?」という葛藤がある。その上でやはり、「何のために生きるのか?」が重要なのだと思う。
 

お彼岸を迎え墓に参る

 歳のせいか、お彼岸になると自然に墓参りができるようになった。
 お墓には、私の明治生まれの父と母と、そして戦後すぐ3歳で亡くなった私の双子の兄弟と兄の息子が眠っている。
 京王線の高尾駅から山道を30分ほど歩くと、あたりは墓地群だ。この辺はとても強い磁場があって、私の身体はそこから発せられる負のオーラに支配される。とても変な感じで気が張り、疲れる。
 そんなことをつらつらと感じながら、私は墓石を前に「親父、お袋、また来たよ」と話しかける。なんだか、手を合わせていると色々な会話が生まれる。
 混血児の親父、クオーターの息子である私。……奇妙な人生を送ったな。
 終戦後まもなく亡くなった双子の弟には、「あんたが生きていたら、きっと自分の人生は変わったものになっていたに違いないよ。残念だな。双子って面白かっただろうに」と語りかけたりする。
 葬式無用、戒名無用、骨は散骨──なんて、白州次郎ばりに思っていたが、やはりお墓が欲しくなった。私がいなくなった後にも、私のことを思い出してくれる親族や友人のためにも。
 
ojisan_05.jpgのサムネイル画像
墓参りをする平野さん
 

オウム事件から20年

 3月12日、ロフトラジオで「やや日刊カルト新聞」(カルト教団、特に幸福の科学やオウム真理教などを追求する新聞)の総裁・藤倉善郎さんを招いて、20年前の3月に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件を考える番組を放送した。
 その次の日、日テレ「バンキシャ!」からインタビューの申し込みがあった。数年前に私が元オウムの上祐史浩氏の主宰する団体「ひかりの輪」による、聖地巡礼ツアーに参加した時のことを語ってくれ、というものだった。
 きっかけは、2010年7月21日、Naked Loftで行われた「オウムって何?」というイベントだった。出演者は、上祐史浩、広末晃敏(ひかりの輪広報)、野田成人(元オウム最高幹部・現フリー)、岩本太郎(ジャーナリスト)、鈴木邦男(一水会顧問)、そして私。ニコニコ動画やUstreamでのライブ中継の視聴者が4万人を超え、ちょっとした話題にもなった。
 私はその時、上祐さんとは初めて顔を会わせたが、大きな衝撃を受けた。気功やヨガ、精神世界の分野に少しでも触れたことがある人はわかると思うが、上祐さんの存在感とそこから強烈に発せられるオーラの「波動」が私を直撃し、「この衝撃はなんだ!?」という驚きがあった。その日以来、私は宗教者・上祐史浩に興味を持った。
 その年の終わりの11月、ひかりの輪広報の広末氏から、「ひかりの輪の聖地巡礼に参加しませんか」というメールをもらった。私は好奇心も手伝って、ロフト映像部のジャムオにビデオカメラを持って同行させ、参加した。
 聖地巡礼の目的地は日光だった。参加者は約30人で、女性が半分ぐらいいた。神社、仏閣を訪れるそのグループの姿は、一見、普通の団体観光客や宗教団体と同じだった。上祐さんの「講話」も、寺の坊主が喋るものとほとんど同じで、「感謝と親切=信じる心」なんて風で、別にこれといって目新しいものではなかった。
 緑に囲まれた杉木立や中禅寺湖のほとりでの瞑想などを体験して、温泉宿で一泊した。私を含めた一般参加者は、宿代は素泊4500円、夕食代は2000円。信者の人たちは400円のノリ弁と雑魚寝で、私たち一般参加者とは違って実に質素だった。
 さて、「バンキシャ!」のインタビューだが、私には、とにかく番組側の筋書き通りにしたがる、悪意に満ちたものとしか感じられなかった。私が、あまりにもひかりの輪の悪口を言わなかったせいなのだろう。結局、インタビュー収録の翌日、「使わないことになりました」との連絡があった。
 

早春の下町を散歩する

 早春の日曜の午後。曇天だがポカポカ陽気に誘われ、谷中を散策。東京の下町は、私が愛する武蔵野と違って、緑が少ないことで敬遠していたけれど、散策すれば楽しいところはたくさんある、と感じた一日だった。
 谷中のメインストリート・谷中銀座は、ほんの100mぐらいの商店街なのだが、商店主の意志がしっかりまとまった統一感のある通りで、多くの人々で賑わっている。
 そして、この界隈は猫の聖地らしく、看板もお店で売っている商品も、猫がらみのものが多い。たい焼きに天然かき氷に……。そんな店先を眺めながら、歩いてゆくのは楽しい。
 商店街を少し離れると、谷中霊園。その一部は、徳川将軍家の菩提寺・寛永寺の墓地だ。15代将軍・徳川慶喜さんの墓を見て、ラブホテル街の日暮里の裏通りをひやかし、上野公園を抜け、アメ横や御徒町方面へと歩いていった。
 
 
ojisan_02.jpg
谷中銀座の日暮里駅側の入り口「夕焼けだんだん」
 
ojisan_03.jpgojisan_04.jpg
 
谷中銀座にはいたるところに猫がいる
 
 
 
このアーティストの関連記事

LIVE INFOライブ情報

■『ロフトラジオ』やってます! 毎週木曜日、20:00から22:00まで(予定)タブーなし!? の生放送!  「もうこの歳になったら、毎日の売り上げとか気にしないで、気楽に好き勝手なことを喋りたい!」とロフト創業者・平野悠がある日突然思い立ち、なぜかネットラジオを開局。毎週木曜日のだいたい20時から22時まで(その日の乗り次第で長くなったり短くなったり)、新宿百人町のロフト仮設スタジオから放送中です。平野に巻き込まれたロフトのスタッフも毎回登場し、時にはゲストが来たり、イベントになったりすると思います。ひとまず定期的にやっていくつもりですが、果たしていつまで続くのか!?(アーカイヴもあります)

COLUMN LIST連載コラム一覧

  • 特派員日誌
  • PANTA(頭脳警察)乱破者控『青春無頼帖』
  • おじさんの眼
  • ロフトレーベルインフォメーション
  • イノマー<オナニーマシーン>の『自慰伝(序章)』
  • ISHIYA 異次元の常識
  • 鈴木邦男(文筆家・元一水会顧問)の右顧左眄
  • レズ風俗キャストゆうの 「寝る前に、すこし話そうよ」
  • 月刊牧村
  • 「LOFTと私」五辺宏明
  • 絵恋ちゃんの ああ えらそうに コラムが書きたい
  • おくはらしおり(阿佐ヶ谷ロフトA)のホントシオリ
  • 石丸元章「半径168センチの大問題」
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の歴史のふし穴
  • 煩悩放出 〜せきしろの考えたこと〜
  •  朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」
  • 今野亜美のスナック亜美
  • 山脇唯「2SEE MORE」
  • 大島薫の「マイセルフ、ユアセルフ。」
  • 能町みね子 新中野の森 アーティストプロジェクト
  • 能町みね子 中野の森BAND
  • アーバンギャルド浜崎容子のバラ色の人生
  • 戌井昭人の想い出の音楽番外地
  • さめざめの恋愛ドキュメンタリー
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の ああ夢城
  • 吉田 豪の雑談天国(ニューエストモデル風)
  • ゲッターズ飯田のピンチをチャンスに変えるヒント
  • 最終少女ひかさ 但野正和の ローリングロンリーレビュー
  • 吉村智樹まちめぐ‼
  • いざゆかんとす関西版
  • エンドケイプの室外機マニア
  • 日高 央(ヒダカトオル)のモアベタ〜よ〜
  • ザッツ団地エンターテイメン棟
  • 劔樹人&森下くるみの「センチメンタル「非」交差点」
  • 三原重夫のビギナーズ・ドラム・レッスン
  • ポーラーサークル~未知なる漫画家オムニバス羽生生純×古泉智浩×タイム涼介×枡野浩一
  • the cabs 高橋國光「アブサロム、または、ぼくの失敗における」
  • “ふぇのたす”ちひろ's cooking studio
  • JOJO広重の『人生非常階段』〜今月のあなたの運勢〜
  • マリアンヌ東雲 悦楽酒場
  • 大谷雅恵 人生いつでも初体験
  • ジュリエットやまだのイケメンショッキング
  • ケラリーノ・サンドロヴィッチ ロック再入門
  • 岡留安則 “沖縄からの『書くミサイル』”「噂の真相」極東番外地編
  • 高須基仁 メディア論『裏目を読んで半目張る』
  • 田中 優 環境はエンタメだ!
  • 雨宮処凛 一生バンギャル宣言!
  • 大久保佳代子 ガールズトーーーク!!!!!
  • DO THE HOPPY!!!!!

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻