歌舞伎町の魅力とは何だったのか
この連載ではもう幾度となく触れているが、また、歌舞伎町のことを書く。東洋一の歓楽街「新宿歌舞伎町」は再開発が進んでいる。伝統ある歌謡ショーの名門・コマ劇場が2008年に閉館し、跡地には地上31階の高層ビルが完成を待つばかりになっている。この施設の1階はパチンコ店が入るらしい。2~4階は12スクリーンのシネコン、さらに上階は1030室もの巨大ホテルが入る予定だという。
ビルが完成し、施設がオープンするのは2015年の予定。目の前の噴水広場に面した別の場所にも、地上28階の高層ビルの工事も進んでいる。こちらには全620室のホテルが入るらしい。歌舞伎町の中心は、ホテルだらけになるのだろうか。
2004年末、東京都知事・石原慎太郎がいわゆる「歌舞伎町浄化作戦」を開始して以来、それまでの風俗店各種のほとんどが駆逐され、カラオケ、チェーン居酒屋、パチンコ屋が進出してきた。東洋一の歓楽街として異彩を放っていた歌舞伎町は、日本中、どこの都市でもあるような画一化した風景へと変貌しつつある。歌舞伎町の怪しげな熱気や狂気は消え、深夜徘徊する人の数も極端に減ってしまった。2000軒を超えていたとも言われるフーゾクは影が薄くなり、ヤバイ店はほとんど地下に潜った。一時期は一日40万人と言われたこの町を訪れる人も、今は15万人程度と言われている。
現在、新宿区と歌舞伎町商店街は、「歌舞伎町ルネッサンス」を旗印に、「エンターテイメントシティ・歌舞伎町再生計画」を将来の街づくりのコンセプトとして掲げている。
「歌舞伎町の魅力は、猥雑(わいざつ)さやどこまでも深いエロの世界だった。楽しく、奇妙で、時代の最先端を行っている面白い風俗もたくさんあった。人間の本質的な欲望が渦巻くから人が集まり、カネが落ちる。なのに、浄化作戦だと片っ端から店を摘発しまくった。2020年のオリンピックの際に、外国人が安心して遊べる歓楽街にするため、歌舞伎町をクリーンにするという。ただ健全だけの街では、オリンピックに訪れる外国人観光客もガッカリするのではないか。
厳しく取り締まることによって、よりアンダーグラウンド化しする。「歌舞伎町は人口あたりの凶悪犯罪やレイプ事件などの件数も、諸外国に比べると遥かに少ない」と、歌舞伎町のプロの案内人は言う。
卒論のテーマが「平野悠」だって!?
もう1年も前になるだろうか? ロフトプラスワンという空間でアルバイトとして働いていた女子大生が、卒論担当の武蔵大学教授と共に私の前に現れた。
「……実は、この子が卒論のテーマを〝平野悠〟にしたいと言っているんですが、協力してもらえないでしょうか?」
「何! 卒論でテーマが俺の生き方? そんなの卒論になるんですか?」
「いや、出来上がって卒論を読んでみなければわからないけれど、面白そうだし、こういうのを扱うのは私も初めてなんですが……」
「なんでまた、私なんでしょうかね?」と聞く。
「平野さんが、私の授業の講師を何回かやりましたよね。彼女はその時の受講生の一人で、関心を持ったみたいなんです。『無給でもいいから、トークライブハウスというところで働きたい』と言い出して。実際アルバイトとして働いてみると、『人生観が変わった』と言うんですよね。きっかけはそんな所です」
もちろん、私は断固断ろうと思った。私の生き方をテーマにした卒論なんて自分としては興味がわかないし、それに付き合う私自身、想像出来なかった。第一、そんな立派な生き方をしてきた覚えはないし……。
しかしいつしか、「断るのも大人げないな」と、思うようになった。若い女子学生が一生懸命生きているのを手伝うのも、私の仕事かもしれない。
そして彼女は、「脱原発国会包囲デモやヘイトスピーチ反対運動」にも、私と共にカメラを持ってついて回るようになった。彼女のインタビューも何回かこなした。
それで終わりだと思っていたが、意外な展開になった。ある日、彼女からこう告げられた。
「平野さん、卒論のDVDを制作しました。約40分間あります。この映像を公開がてら、Naked Loftでイベントを開催したいので、出席して下さい」と来た。参ったな、と思いつつ、今更引っ込みもつかない。そんな経緯で行われたのが、10月2日に行われた、「『語り合う場から~ライブハウス親父の生き様を見ろ!~』上映会」だった。
10月2日、Nakedには60人もの客が集まった。
監督・芳賀真奈美(私の右下でピースサインをしている)は女子大生。
同期の大学生達もたくさん来てくれた
秋が刻々と深まる中、NHK・Eテレの「オイコノミア」にゲスト出演した。「これで平野さんもNHK文化人だ!」なんて言われた(笑)。番組が放映された次の日には、大阪サンテレビのワイドショーで、Loft PlusOne Westが特集された。おかげで、ロフトのサーバーがアクセス集中し過ぎてダウン。まだまだ巷で市民権を得るまでには至っていない、Loft PlusOne West。ぼちぼち、大阪持ち込み企画が入って来るようになった。これが一番うれしい。
「オイコノミア」の記念写真は、落書きだらけの新宿ロフト楽屋で。
左から、ピース・又吉(お笑い芸人)、私、淺田義久(日大教授)
神戸新聞にも載ったLoft PlusOne West