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95回「秋、始まる」

第195回「秋、始まる」

2014.10.01

夏の終わりの三浦海岸へ

 毎年、お盆を過ぎると一挙にもの悲しい季節になる気がする。ただ、今年のように猛暑から突然涼しくなって、そのまま秋に突入するのは、夏が嫌いな私にはうれしい。
 窓からは残暑の日差しが、私の寝室に無造作に入り込んでいた。朝8時。ガバーッと、毛布を跳ね上げるように起きた。いつもは10時頃起きる私にとっては、大変な英断だ。
 目覚めたばかりのまどろみの中で、「夏の終わりの海が見たい」と思った。最初に浮かんだのは、茅ヶ崎〜江ノ島の海岸線。だが、今日は早く起きたのでちょっと遠くに行きたくなった。
 夏にはしゃぎすぎた子供も若者も、失恋した少女も、秋の影に隠れてゆく。夏の終わりの海岸で、廃墟のような海の家の残骸も見たくなかった。行くあてなく取り残された様な、真っ黒に日焼けしたサーファーくずれにも会いたくなかった。
 『日帰りウォーキング』(JTBパブリッシング)というハイキングガイド本を駅の本屋で買い、歩くコースを決めた。行く先は三浦半島。品川から京浜急行に乗り、三浦海岸駅で降り、バスで剱崎というバス停まで。私が住んでいる世田谷からだと結構長時間、電車とバスに揺られる。ちょっとした旅の気分だ。
 
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剱崎の真っ白な灯台
 
 
 バス停を降りると、なだらかな青い田園風景の先に真っ白な剱崎灯台があった。そこから沢を下ると、岩だらけの海岸線に出た。ガイド本書くところの「三浦半島南端シーサイドウォーク」だ。そのまま進むが誰とも出会わない。これはうれしい。しかも、カラッと晴れて今日は散歩日和。
 静かな海と岩だらけの海岸、小さな古い漁村が点在している。誰もいない海岸線を黙々と一人歩く。最終章に入った自分の人生の秋を感じながら。もう歳をとりすぎて、青すぎる海の輝きのまぶしさに負けそうになる。いつしか、吹き出した汗が秋風でひんやりしていた。
 ひとしきり歩いた後は、やっぱり「漁港での寿司」だ。三浦海岸の先端にある港町・三崎といえばマグロ。名物を味わい、帰路についた。
「八景原 春の光は極みなし 涙流して寝ころびて居る」(北原白秋)
 
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波打ち際に岩盤が続く三浦海岸
 

凄いぞ! エアギター世界選手権優勝

 7月、新宿LOFTのバーラウンジで行われたエアギター世界大会の日本予選会で、審査員を務めさせていただいた。もうエアギターのブームなんて、とうに終わっていると思っていた(笑)。関係者によると、確かにブームは去ったが、エアギターシーンは全世界に定着しているのだとか。
 4〜5年ぐらい前まで、ロフトの社員で宮城マリオという青年がいた。ロフトシネマのスタッフとして映像制作を担当していたのだが、実はエアギタリストでもあった。ブーム華やかなりし頃には、あのジャニーズの「嵐」にエアギターを教えたりもしていた。私も当時、マリオが嵐にロフトで指導している光景を見たことがある。
 そのマリオから、予選会の審査員のオファーをもらった。エアギターにほとんど興味がなく、出場者がどのギタリストの真似をしているかもほとんどわからない私は、自分の直感のみに基づいて、面白いか、面白くないかだけで審査した。当然、他の審査員ともほとんど意見が食い違って顰蹙を買ってしまったようだった。
 8月末、そのマリオからメールが来た。
「本日未明にフィンランドで開催されたエアギター世界大会で、日本代表の名倉七海さんが優勝しました! ダイノジ大地さん以来となる、日本人のエアギター世界チャンピオンです」
 7月の予選会の記憶を呼び戻しながら、インターネットで検索。それにしても可愛すぎる19歳だな。10月には日本で凱旋ライブがあるそうだ。行こうかな? 「おい、次はフィンランドでの世界大会の審査員をやらせろよ」と、マリオには返事しておいた(笑)。
 
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エアギター世界大会で見事優勝した七海さんのプレイ
 
 
 先日あるパーティで評論家の鈴木邦男さんから、「平野さん、『70歳になって、もう俺の人生は終わった』なんてよく書いているけど、迫り来る死の問題とか病気とか、あまりくよくよ考えない方がいいですよ」と忠告を受けた。
 鈴木さんは私より1歳上だ。今でも1日1冊読むこと、そして柔道や合気道も続けていて、気になるイベントや人が集まる場所に気軽に出かけてゆく。素晴らしき先輩人だ。
 確かに今年、古希(70歳)を迎えた際、還暦(60歳)の時とは比較にならないくらい落ち込んだ。「俺の命もついに秒読みに入ったか?」「もう時間がない、早くせねば……」「年金をもらってあと5年生きたとして、どこが今と違うのか?」思い悩み、生きている意味を失いそうな日々が続いた。
 テレビで老人問題を取り上げた番組を見ると、「あと何年すると、あのような寝たきり老人になるのか?」などと考え込んでしまうので、なるべく見ないようにしている。やはり老人には「生き甲斐」が必要だ。楽しい老後を送るにはどうすればいいのか、真剣に考えなければいけない、と思った。
 
 自分を省みては落ち込んで、「どうやって今の会社を辞めようか」なんて悩んでいるところに、「平野さん、至急大阪(Loft PlusOne West)に出張して下さい」「TV番組にゲストで出演して下さい」「本を執筆して下さい」なんて声が掛かると、うれしくなる。
「まだおいらはこの社会から必要とされている。頑張ってみようか」と思う。秋が深まるにつれて、「人間は孤独を感じる生き物だ」との思いを強くしている。
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