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93回「老いを生き抜く覚悟」

第193回「老いを生き抜く覚悟」

2014.08.01

70歳! これは我が人生の由々しき事態だ

 なんと、今年8月10日で、70歳、古希を迎えるハメになった。大変だ。これは我が人生における実に由々しき大事件なのだ。
 当然の事ながら老いは誰にでもやってくる。それに伴って身体的、精神的変化が起こる。「こんなに長生きできるとは思わなかった……」と、思うことしきりの昨今だ。
 ちょうど10年前。60歳、つまり還暦を迎えたときはまだまだ元気な盛りだった。仕事もバリバリやっていたし、老人になったという意識はほとんどなかった。自分には、老いとか長寿なんて言葉は無縁だと思っていたのだ。「やはりこの会社(ロフト)は、俺がいなければなぁ」と、悦に入っている自分がいた。
 還暦のお祝いといえば、「赤のちゃんちゃんこ」と決まっている。私も、会社のスタッフ達から、ちゃんちゃんこはもちろん、赤の下着や帽子まで贈られた。もっとも、かつては還暦を迎えることは長寿の証だったが、平均寿命が80歳を超えている現在の日本では、まったく珍しくない。巷では、70歳が昔の還暦みたいなもの、といわれているらしい。
 そういえば、その10年前の還暦を迎えた日。私は一人、自宅の最寄り駅から一路東へ、京王線・中央本線と乗り継いで60駅目を目指してみた。途中一駅が過ぎるのを1年ととらえて、生まれてから60歳になるまでの自分の歴史を、一つ一つ、車窓に目をやりながら懸命に思い返してみたのだった。「あの頃こうしていたら……」といった空想も含め、60年の歳月のあれこれを思い浮かべ、ノートに記しながら一日を過ごしたのだった。
 
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(左)10年前の還暦の時。上から下まで真っ赤っ赤。
(右)ベランダでヨガのマウンテンポーズをとる現在の平野さん
 

「古希を祝う会」なんて勘弁願いたい

 還暦は赤だが、古希は紫なんだそうだ。家族や親族に囲まれ、「紫のちゃんちゃんこ」を着たニコニコしたおじいちゃん。とてもじゃないがそんなイメージは私には似合わない(笑)。孫は一人いるが、周囲の老人達みたいに溺愛し目を細めることもない。
 とはいえ70歳近くになると、いくら元気だと思っていても、身体のあちこちにガタが出始め、なんだかんだ病院通いになる。いつしか自分を取り巻く周辺も変わってゆき、会社にいても家庭にいても、喪失感と孤独感に支配されてしまう。
 歳をとるってロクな事がない、どうしてもそう感じてしまう。若い時と同じ基準では、何も決められない。身体も気持ちもついていかないのだ。
 古希を迎えるにあたってのテーマはまだない。人生の終焉を、穏やかに迎えることができるのかどうかも疑問だ。「つつがなく古希を迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます。70歳はまだまだお若い年齢です。お体を大切にいつまでも元気でいて下さい」なんて声をかけられるのは、勘弁願いたいと思う。「古希を祝う会」なんてまっぴらだ。お祝いの言葉は私を傷つけるだけだ、と思った。
 
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10年前、還暦祝いでスコティッシュの子猫を買った。
その子が今や人間でいうと56歳になった
 

老いること、死ぬことには誰も抗えない

 老いるということは、否応なく下り坂の現象だ。一方で「老いる」ということは生きることであり、現在形でなく進行形である。そして、それに抗える人間は誰一人いない。生きることを積み重ねてきた結果が老人なのだ。そして老人となってからも、さらに老化してゆくのだ。
 若年から中年を経て老年になる。それにつれて、だんだん世の中を肯定できなくなる、と私は考えている。若い時は、死のことはあまり切実に考えなかった。しかし今や「死」は確実に私の視界に入ってきている。一生懸命生きてきたはずだが、自分の人生は何だったのだろうか? 死をどうやって迎えればいいのか?
 迫り来る人生の終わりに、「死」への自分の気持ちを決めておくこと、あらかじめ「覚悟」を持つということが大事なのだろうか。しかし、いくら考えても「死」の問題は答えが出ない。答えが出ないものをあれこれ考えても意味がないと思えてしまい、堂々巡りだ。
 これまで生きてきた時代の総決算をするべく、行動を起こさねばならない、と以前から思いつつ、果たせていない。「こんなにだらしない生活を送っている俺が、長生きできるわけがない」と、長いこと思っていた。そして、そんな私はまだ、生きている。
 
「生命は尊い」だと馬鹿言っちゃいけません。生命は尊くも醜くもありません。ただの自然現象です。私たちは死ぬ。私は死ぬ。誰も死ぬ。
しかし「死」とは何か。
この世の誰一人として、未だかつて経験したことのないそれは、いったい何なのか。
誰一人死んだ経験がないにもかかわらず、死ねば何もなくなると、なぜ皆信じ込んでいるのか。 
(池田晶子「私とは」より)
 
 困ったな。何かとても暗い話を書いてしまった。ふらりと外へ。雨。まだ降っている。風が吹く。傘が風で飛んで、私はひまわりの咲いている緑道を無邪気にずぶ濡れになりながら歩く。東京郊外の緑は、夏に向けて鮮やかさを増してゆく。有り難いことに、通りすがりに小さな銭湯があった。ちょうど客は誰もいなかったので、サウナで濡れた衣服を乾かした。
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