過去、向き合えていますか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。
更新されなくなったSNSを削除するタイミングを迷ったまま、連絡もとらなくなった知り合いと友だちの間にいるひとの影に触れたとき、心が少し動揺します。
電話番号がひろってくるLINEの『友だちかもしれない』リスト。同級生の面影がある赤ちゃんのアイコン、横に並ぶのは知らない苗字です。おめでとうございました、でも過去のことは思い出したくないんです。と、心の中でごめんなさいをして『友だちに追加』を押さずにそっとスルー。「おばあちゃんになっても遊ぼうね」は、守れませんでした。
過去の自分、過去の友だち、過去の恋愛、過去の失敗...その他もろもろの過去にしておきたいことが、ときおり、今まさにこの瞬間この場にいるような気持ちになることがあります。
元カレあるいは元カノの影を膨らませて、勝手に終わってしまった過去の恋愛への罪悪感。SNSは即リムーブ、LINEのリストは非表示。なぜなら、自分がそうされてたらいやだから。思い出すたびに、「青春だったよね」では言い切れないような、ヘヘヘ...と苦笑いしてしまうあの気持ち。
やめてしまった仕事への未練と恐怖、逃げるように退職した自分はどう言われているんだろう。仲良しだった向かいの席の人も、幻滅しただろうな、なんて思うとダメな自分が恥ずかしくて消えてしまいたくなります。
そういえば小学生のころ、誰にも話しかけられなかったから、忘れた教科書を借りられなくて授業中に先生に怒られたな。中学生のころなんてストパーもかけていないから、雨の日は髪がくるくるだっだよな。高校生になってもアニメの筆記用具を使っていたし、アイドルのキーホルダーをつけていたことなんて忘れてほしいな(これらは今もほぼ変わりませんが)。「成宮? ああ、あの気持ち悪いやつね」なんて今でも思い出して笑われていたらどうしよう。
さらには、当時住んでいた崩壊家庭での罵声やDVのことをぶり返しては、明日、目が覚めてあのころに戻っていたらどうしよう...と、苦しかった日々が鮮明によみがえります。
そんなとき、「過去は、今には追いつかないよ」と言い聞かせることにしています。
過去は、何年も経っても容赦なく降り掛かってきて、今の生活の邪魔をします。それを全部取り払う薬ができても、わたしは新しい自分にはなれないような気がします。けれど、実体のない過去は、実体のある今には勝てないのです。
何もない空間から突然、腕だけがスーっとあらわれて殴られることはありませんし、出社したらそこがかつての小学校のクラスだったなんてこともありません。同級生が突然あらわれて、過去の自分の失敗を責め立てることなんてありませんし、過ぎた過去に偶然戻ってしまった! なんてアニメのようなことも起こりません。
人生は、過去ログのようには消せませんが、わたしが過去に届かないように、過去だって今のわたしには届かないのです。
過去の悪いところは、戻れないところです。そして、過去の良いところもきっと、戻れないところだと思うのです。
Aico Narumiya
朗読詩人。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマにした詩の朗読をしたり、文章を書いている。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。赤裸々な言動により、たびたびネット上のコンテンツを削除されるが絶対に黙らないでいようと心に決めている。趣味はアイドルとプロレス。