故郷、お好きですか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。
わたしは生まれも育ちも新潟なのですが、帰省をするたびに…いや、それどころか新潟を思うたびに、なぜあなた(=新潟)はわたしを好きになってくれないのか、なぜわたしはあなた(=新潟)を好きになれないのか、みんなには優しくて居心地のいい人(=新潟)でいるくせに、なぜわたしにはそっけないのか、なぜいつも頭の片隅にあって忘れられないのか、好きって言ってよ! 好きにならせてよ! どうして好きって言ってくれないの? なんで!? と、まるで悪い恋愛中かのような感情に振り回されてしまいます。
まず、機能不全家庭で育ったため心温まる家族団欒の思い出は皆無ですし、学校では声がキモいと言われ、声を出すことが恐怖になったので、故郷に良い思い出はほぼありません。それらが積み重なった結果、学校から病院送りになり、安定剤の点滴を打たれて「この制服がかわいいから頑張って高校に入学したのに!」と泣きながらパニックを起こし、看護婦さんともみくちゃになるというバイオハザードのような忘れたい歴史については、9月20日に刊行となった初書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』に書いていますので、お手にとっていただけたら嬉しいです。宣伝上手! 実は病院送りになる前に、生きづらいからいっそギャルになろうと思って日サロに通った時期があるのですが、それについてはまた今度。
とにかく、故郷はできれば忘れたいような記憶だらけです。忘れもしない高校の卒業式。卒業というゴールを前に、いい加減友人関係もすっぱりと諦めがつき、誰にも話しかけず校舎を出ました。卒業パーティーに向かういろんなグループを横目に、少しだけうらやましくもありました。…本当は心底うらやましかったです。
卒業証書を持ってひとり向かったのは、イトーヨーカドー。なぜかと言うと、当時は同世代の人がこわかったので、年配の方が多いイトーヨーカドーは安心スポットでした。紳士服の階に行けばますます同世代と遭遇する可能性は落ちます。トイレの前は肌着売り場のコーナーが配置されていて、白いプラスチックのベンチが置いてありました。そこはわたしの放課後の居場所でした。そこに座ってぼんやりとおじいちゃんたちのももひきを眺めていると、なんだかとてもほっとしたのです。いつものようにベンチに座り、卒業証書を広げて、そこに記された自分の名前を見て少し泣きました。
最近、ライブやイベントの出演で新潟に帰ることが増えました。先月は新潟県民会館というホールでライブをさせてもらい、居場所がなくなって新潟から逃げたのにこうして帰る居場所をもらった感謝と、このライブが終わればやっぱりまだ新潟にはどこにも居場所がないんだよなという正反対の気持ちで混乱しました。いろんな方とお話をした後、会場を出れば、あの時からなにも変わらないわたしと新潟です。大好きになりたいし、ときどき好きだけどやっぱり大嫌いだよ…。相変わらずひねくれた恋愛感情に似ている気持ちを抱えて向かったあの場所。イトーヨーカドー紳士服売り場のトイレの前のベンチは、相変わらずそこにありました。