引っ越しを終えたが、まだバタバタとしている。
ボクの男の娘の彼女のミシェルが気軽に遊びに来れる環境を作ろうとした引っ越しだったため、基本的にこの部屋はボクの部屋であってボクの部屋でない。
たとえばボクは基本的にテレビを観ないため、長らく部屋にテレビのない生活を続けてきた。しかし、今回の新居にはわりと一人暮らしにしては大きめのテレビを置いた。ミシェルがテレビ好きだからだ。その他にもミシェルが使うゲーム機、ミシェルが読むマンガ、ミシェルが着る服……もう、どうにかしてミシェルを長居させようと必死だ(笑)。
しかし、まぁ、普段はボクが一人でこの部屋にいるので、ボクもあるものは使う。数年ぶりにテレビを点けっぱなしにして部屋で過ごしたりもした。すると、あることに気づいた。
BGMのようにテレビで同じチャンネルを流したまま、朝の支度などをする。最初こそ番組を観ていたが、その後、興味のない次の番組が映し出される。こちらは朝の支度に大忙しだ。しかし、なにかのワードや、なにかのコーナーに反応してチラリとテレビを観る。意外と面白い話をやっている。支度の手は止めず、横眼でテレビを観る。
「へー、スキップってケンケンを続けてやるのと同じ仕組みなんだ……」
別にスキップにそこまでの興味はなかったが、最近スキップのできない人が増えているという話題に変に好奇心を刺激されてしまった。
そのときふと思ったのだ。ああ、これは不要な情報なんだ、と。
人間にとって必要、不要という話ではない。ボクにとって不要な情報なのだ。
いままでのボクはテレビのない生活を送ってきたとき、PCが情報の供給源だった。PCは操作を必要とする。なにかを知りたければ検索窓に自分で入力しなければいけない。スマホもそうだといえる。
しかし、テレビは違う。電源ボタンを押してしまえば、あとは勝手に情報が流れてくる。必要な情報も、不要な情報も。これがPCやスマホにはないのだ。
合理的に考えれば、必要な情報を必要なときに必要なだけ手に入れるほうが、圧倒的に効率が良い。だが、それでは広がりがない。ボクの興味はボクの持つ知識・経験・感覚より先へ届かない。
ある種、健全な興味の形というのは、不要な情報も楽しめるような状態を指すのではないだろうか。こんなことに気づくのも「大島薫」という活動から逸脱して、恋人ができたおかげだなと思う。
そういえば、恋愛だって考えてみればこの世の中で一番不要なものかもしれない。子孫を残すだけなら人工授精でいいし、セックスのためならデートをする必要はないし、寂しいなら友だちがいればいい。だけど、ボクらは恋をする。
この恋が不要なものだって思いたくないから。一人より二人のほうが楽しいから。だから、ボクらは恋をする。
大島 薫:1989年6月7日生まれ。ブラジル出身。ノンホル(女性ホルモン未使用)、ノンオペ(性転換手術をしていない)を公言している、純粋な男の子。Twitterフォロワー約15万人を誇る。女性よりも可愛らしい容姿を武器にセクシー女優として活躍していたが、2015年6月に引退。現在はマルチタレントとして幅広く活動中。