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回 この世から女装男子を消す唯一の方法

第8回 この世から女装男子を消す唯一の方法

2016.06.01

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 日本は本当に恵まれているなぁと実感する今日このごろ、大島薫です。
 この前、自宅の鍵を紛失し、鍵屋さんを呼んだときのことです。まったく我ながらうっかりしたもんだと呆れながら、鍵屋さんに対応しているとその方が「サインお願いします」と紙とペンを差し出してきました。いやぁ、ボクも有名になったもんだと芸能人オーラを醸し出しながら受け取ると、「書類を確認していただいて、問題なければサインを」と鍵屋さん。ああ、そっちね。
 謎の辱めを受けながら(鍵屋さんは悪くない)、書類にサインをしていると鍵屋さんが「あと、規則なので身分証もご提示いただけますか」と言いました。うーむ。正直ボクは身分証を見せるのがあまり好きではありません。いま手元にある身分証が男性の見た目のときのものしかないからです。あの身分証を出して顔と性別を見たときの「あっ……」という何とも言えない相手の察するような顔。お互い何も言わずとも気まずくなるようなあの感じ。
 しかし、言われたからには提出しないわけにはいきません。ボクはおずおずと身分証を提出しました。案の定、一瞬キョトンとしたような鍵屋さんの顔。「これ、ご本人ですか?」。きたきた。「あー、その……はい」。しかし、鍵屋さんの次の一言は意外なものでした。
 「うわー! すごい《変身》ですね!」
 ともすれば、その物珍しいものを見るような反応は差別的ともとられるかもしれません。ですが、ボクは正直『ありがたいな』と思いました。ボクが性同一性障害ではないということもあるのかもしれませんが、純粋に思ったことを当たり前のように言葉に出してくれることがすごく楽なことのように感じたのです。
 日本は宗教的に同性愛と異性装が禁止されていない珍しい国です。世界三大宗教と言えばキリスト教・イスラム教・ヒンドゥー教ですが、そのどれもが同性愛を禁止しています。キリスト教・イスラム教については異性装も禁止ですが、例外的と言えるのがヒンドゥー教のヒジュラと呼ばれる集団です。ヒジュラは去勢などを行ない、人工的に半陰陽となったMtF(※)たちですが、彼女らは公的に第三の性と認められているので、例えばヒンドゥー教の男性とヒジュラが性行為を行なったとしてもそれは同性愛に当たらないという解釈になります。しかし、これは本人らからすれば男性である意識がないともとれるので、同性愛・異性装と呼ぶにはいささか不適切なようにも思えますね。
 さて、では日本はどうかと言うと、主に神道・仏教の国です。文化庁が平成18年に発表した「宗教統計調査」によると、神道系が51.2%、仏教系が43.3%とそのほとんどがこの二つの宗教で構成されていることがわかります。仏教は言わずもがなですが、神道も推奨こそしないものの罰するほどの厳しい戒律はありません。そりゃあ、男色文化流行の立役者は空海と言われてるほどですから、宗教で禁止しているような国ではないですよね。
 そんな日本でも同性愛・異性装が犯罪として取り締まられた歴史があります。明治期に発令された「異性装禁止令」や「鶏姦律」がそうです。少女がショートカットにしただけで学校を退学にさせられるような時代が、この日本にもかつてあったというのは驚きを通り越して不思議な気持ちにさせられます。では、女装男子をこの世から消す方法はそういった、宗教や法律で取り締まるということなのでしょうか。いえいえ、当然その当時でも女装をしていた人はいますし、最近だと2014年にマレーシアで異性装で逮捕されたイスラム教徒もいました。第一、法律で禁止してみんなやめるのであればこの世から犯罪は消えてなくなります。
 この世から女装男子を消す唯一の方法、それは男と女の消滅です。いえ、もっと正確に言えば「男物」と「女物」という概念の消滅ということになるのでしょうか。
 要するに男が女物を着ているから《女装》なわけです。世の中が『スカートは女性が穿くもの』と思っている限り、男性がスカートを穿けば女装と呼ばれることでしょう。逆に言えばみんながみんな男物、女物に関わらず好きなものを着るようになれば、装いようがありません。
 そう考えてみると、女装というのは「男の娘」とか「第三の性」と称されることが多いわりに、その実《究極の男女二元論者》と言えるのかもしれません。長い髪の毛とか、フリフリのドレスとか、社会的にそれが女性のものと認知されているものである必要が、女装にはあるということですね。
 以前、テレビで「いま流行りの女装男子特集」というのが連日ワイドショーなどに取り上げられていた時期があります。そのときインタビューに答えていた女装男子の一人がこんなことを言っていました。
 「男とか女とかって考え方が古い。女装するのだって認めて欲しい」
 もしかすると本当に世間で女装が一般化され、認められるときというのは、同時にこの世から女装という言葉が消えるときかもしれませんね。
 
※MtF(Male-to-Female)
 性同一性障害の類型の一つ。生物学的な性は男性だが、自身を女性と自認している人を意味する。
 
大島 薫:1989年6月7日生まれ。ブラジル出身。ノンホル(女性ホルモン未使用)、ノンオペ(性転換手術をしていない)を公言している、純粋な男の子。Twitterフォロワー約15万人を誇る。女性よりも可愛らしい容姿を武器にセクシー女優として活躍していたが、2015年6月に引退。現在はマルチタレントとして幅広く活動中。
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