トップ > コラム >大島薫の「マイセルフ、ユアセルフ。」 > 第5回 男性は女性になりたがっている

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 曰く男性は女性になりたがっているらしい。2014年に22〜39歳の社会人男性を対象に行なったアンケート結果によると、「女性になりたいと思ったことがある」と答えた男性の割合は約半数近くに上ったそうです。一方、2013年に行なわれた「生まれ変わったら男女どちらに生まれたいか」の問いには、約6割の男性が「生まれ変わっても男性に生まれたい」と答えました。
 この調査結果だけをもとに判断するなら、《概ね男性は男性の性に満足してはいるが女性の性も経験してみたい》と考えているようです。
 創作物のジャンルの一つにTSF物と呼ばれる作品があります。「Trans Sexual Fiction」または「Trans Sexual Fantasy」の略で、ある日突然男性が女性に、女性が男性に変わってしまう作品をこう呼びます。
 TSF物の前提として、現実世界における性転換(性別適合手術)などを題材にするのではなく、あくまで空想上の物語であることから、「Fiction」や「Fantasy」の「F」が用いられています。
 ボクより少し上の世代の方なら『おれがあいつであいつがおれで』という山中恒氏の児童文学が有名ですね。ああいった、最初から存在していた男性と女性が中身だけ入れ替わってしまうといった内容も、一種のTSF物と言えます。
 その他、魔法使いに突然性別を変えられてしまった少年が主人公の漫画『天使な小生意気』や、水をかぶると女になってしまう呪いにかかる『らんま1/2』のような、男性一個体が身体だけ女性になってしまうようなものも含めて、TSF物と呼ばれる作品は多岐に渡ります。
 先述の調査から考えるなら、ある種《男性の夢》を形にしたような作品ですが、果たしてその心理はいかようなものでしょうか。
 TSF物の場合、「先天性女体化」は排除して考えることが多く、取り扱われるのは「後天性女体化」のほうです。この先天性とか後天性というのは「生まれたときから女」という設定かどうかということを指します。最近よく見かける《歴史上の偉人がもし女だったら》といったような作品は、女体化ではあるけどTSFには含まれないということですね。
 つまり、ある日突然《女》になるわけです。初めて月に一度股間から血が流れ出るのを自覚したり、メイクを覚えたり、スカートを穿いてみたり、男性からの視線を感じたり……女性が長い年月を費やして少しずつ経験していく出来事をいきなり始めるわけです。
 女装者の中にも近いような経験をする方はいます。さすがに生理までは経験できませんが、あるタイミングから突如メイクや女性の服装を勉強して、徐々に純粋な女性の姿に近くなっていくのはまさにTSF物に見る過程に似ています。
 また多くのTSF物では女装者がそうであるように、ごくごく普通の男性だった主人公が無意識に男性に惹かれてしまう描写が数多く登場します。いわゆるノンケで女装を趣味とする男性の中にも、こういった経験をする方は少なからず存在していて、実際に付き合うかどうかは別として、男性からの視線を好意的に受け取る異性愛者の女装男性は多いようです。
 心理学で言うところの「好意の返報性」というもので、人間「好きだ」とか「愛してる」とか言われてしまうと、無意識にその気持ちに応えてしまいたくなるようです。普段アプローチすることの多い男性がそういったダイレクトな好意に触れると、そのインパクトは女性が普段触れる以上の感動に感じられるのではないでしょうか。
 そのため、わざと男性を誘うような素振りを見せる主人公を描くTSF作品も多くあります。新堂エル氏の成人向け漫画『TSF物語』もまたその一つです。個人的にこの作品は非常に好きな作品の一つで、あくまで男性の意識を保持した主人公が、女体化したことで得る心境の変化や気づきをフィクションでありながら妙にリアリティを持って描かれています。
 この男性の意識を保持しているというのがTSF物では非常に大切で、トマス・ネーゲルの『コウモリであるとはどのようなことか』の真逆をいくような思考実験的な面白さをはらんでいます。
 たとえば冒頭のアンケートのように「女性になりたい」と考えていたことのある人物が女体化した場合、最初こそ戸惑いはすれど、次第に運命を受け入れ女性の性を謳歌するのではないでしょうか。男性のとき憧れていたかわいいフリルの付いた服を好きなだけ着るかもしれません。はたまた男性を翻弄する小悪魔的な女性を演じるのかもしれません。
 何にせよそれはその人たちにとって《理想の体現》だということです。自分が憧れていた女性像に、自分自らなっていく。
 イラストレーターのリリー・フランキー氏がインタビューでこんなことを言っていました。
 「女になってみたいね。もし俺が女になったらすっげぇエロい格好で外に出るよ」
 現実にそんなエロい女はいないけど、俺が女ならやっているという、これがまさに自分の理想の体現ではないでしょうか。
 我々男性は常に自分の理想像を追い求めて女性を愛しています。自分が一番好きなタイプの女性は、もしかしたら《自分がなりたい姿》なのかもしれません。
 
ボクらしく。
大島 薫・著

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