キング・オブ・ポップ。
音楽好きな人ならピンとくるであろうこのフレーズ。
そう、ご存じ世界のマイケル・ジャクソンの敬称です。
私がまだ小学生の頃、夏休みに家族旅行でタイのバンコクへ行きました。当時の浜崎家は長期休暇の際、2週間ほどバカンスへ出かけるという優雅な生活をしておりました。
バンコクで泊まったホテルは、街の喧騒が嘘のような緑溢れるラグジュアリー・ホテルで、当時小学生だった私と今現在の魂を入れ替えて満喫したいほどに素晴らしいホテルでした。
でも小学生だった私は、ショッピングも興味がなく、街へ食事や観光へ出かける以外は連日のようにホテルのプールで遊んでいました。
ある日、プールへの道中に庭園があるのですが(本当に広いホテルでした。しかも孔雀やらフラミンゴやらが歩いている)、何やら騒がしい。色とりどりの電飾が飾りつけられ、たいまつも焚かれ、大音量で音楽が流れていました。
庭園の奥はパーティが開かれているっぽく、入口付近には厳重なセキュリティ・チェックと筋骨隆々としたガードマンが立ちはだかっていました。
入口に何やら人物のパネルがあります。
「えっ!? ええ〜〜!?」
母が歓喜の声を上げます。
『Michael Jackson Dangerous World Tour.』
そう、マイケル・ジャクソンのワールド・ツアーのバンコクでの打ち上げパーティが行なわれていたのです!!
マイケル・ジャクソンのツアーの打ち上げがなぜこのホテルで!?
「うそ〜〜!? マイケルがこのホテルに泊まっているの!?」
それはもう答えは一つでしょう。
そういえば、最上階ペント・ハウスがワンフロア立ち入り禁止で、ガードマンが至る所に立っていたことを思い出しました。
母はマイケルの大ファン。ガードマンにお願いしてマイケルの等身大パネルの前で記念撮影をさせてもらいましたところ、ディレクターのような人が通りかかって、
「オー! ジャパニーズ・チルドレン!」と、私と兄に向かって何やら話しかけています。
父と母の表情が変わります。
このホテル、日本人観光客はほとんど泊まってなくて、その時間帯、日本人は我々しか散歩していませんでした。
ディレクターさんの計らいで、なんとマイケルのためにぜひ日本人の子ども代表として記念撮影に一緒に写ってほしいと頼まれました。
厳重なセキュリティ・チェックのガードマンがにっこりとほほ笑んで、打ち上げ会場に浜崎一家が招かれます。
夢のような世界でした。
マイケルの最新アルバム『Dangerous』が大音量で流れ、外国人の子どもたちが(多分モデルであろう)ドレスやタキシードを着てダンスをしています。
美味しそうな食べ物や飲み物が次々に盛りつけられ、なぜかマイケル・ファミリーのように歓迎され、外国人モデルの子どもたちに交じって記念撮影をしました。
私はプールへ行く格好だったため水着の上にTシャツを羽織っていただけだったので、ドレスを着ている外国人の女の子たちにジロジロ見られて恥ずかしかった記憶が強く残っています。妖精のように可愛い子どもたちがたくさんいました。
ボーイさんが渡してくれたイルミネーションと同じようにキラキラしたフルーツ・ポンチを私は一生忘れないと思います。
マイケルはその日体調が悪く、パーティには出席できなかったようですが、あの外国人子どもモデルたちに交じって写った写真をマイケルが見てくれたかもしれないと思うと不思議でなりません。
そしてなぜにホテルに宿泊していただけの部外者の我々をパーティへ招いてくれたのかさっぱり分かりませんが、今でも私がマイケルのアルバムで一番好きなのは『Dangerous』だし、あの時に聴いた当時画期的で最先端のサウンドに驚いたことはこの後の私の人生において重大な瞬間だっただろうし、あの夢のような体験は忘れないでしょう。